東京都は教育現場にAIをどのように使うべきか?

現在、東京都としてAI人材を育成していくにあたり、下記の様な論点が生まれてきています。
これらの論点について広く意見を集め、よりよいものにしていきたいので、ぜひご意見をお聞かせください!

論点

  • AIによる指導や、教員の補助は可能か?
    • 生徒が誤答した際にヒントや質問例をリアルタイムで提案
    • 対話的なコミュニケーションの練習
    • 個別最適化学習(習熟度や理解度のギャップに応じて教材を個別提供)
    • 作文指導における文章表現・リテラシーへのAI支援
  • AI導入の社会的効果として考えられるものは何か?
    • AI活用が経済格差・地域格差の是正につながる可能性
    • 障害のある学生への支援と学習アクセシビリティの向上につながる可能性はないか
    • 教員の負担軽減・生徒と接する時間の増加
  • どのような制度・レギュレーションを設ける必要があるか
    • アルゴリズムの偏見と公平性
    • データプライバシーと監視社会化
    • 人間性の涵養という教育本来の目的への影響

AIと議論してみる

下記URLよりAIと議論してみてください。(AIと議論した内容もAIレポートに反映されます)

参加いただく方に話してほしいこと/してみてほしいこと

  • すでに投稿してくださった皆さんの意見を読んでみてください。面白い論点が詰まっています。トピックファシリテーターからも順次リプライします。
  • 上記の論点を見て、実現すべきと思うものと、すべきでない / 実現が難しいと思うものを理由とともに教えてください
  • 施策を実現する上でハードルになりそうな点も教えてください!
  • できるだけ他の人の意見に対してもコメントしてみてください!議論が活発になればなるほど、このプラットフォームの価値が増します!

(参考)世界で行われている施策例(Deep Reserach)

(参考)東京都AI戦略会議での議論

東京都AI戦略会議ではこの画像のような意見が出されています。このトピックでは、特に教育分野でのAIの活用について皆さまのご意見を募集します。

トピック運営スタッフ

トピックのファシリテーターは @eitaro です。

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安野の初期仮説としては下記です。

  • 適切なAIへのアクセスを広く担保する(ギガスクール構想でタブレットを配ったように、AIへのアクセスを配る)ことはいくつかの観点から有意義なのではないか
    • 学力、情報リテラシー、思考の補助をさせることができる
      • 「知識を教える」「1対1で何がわかっていないのかを把握して説明する」「面倒を見る」みたいな能力については早期にAIが教員の能力を上回る可能性が高い
        • 短期的にいえば、英語や情報などの科目においては既に教員はGPTに勝てていない
        • また、数学や物理、化学などのSTEM系科目も既にo3 miniに勝てないのではないか
    • 親の意思決定によらず平等に機会を与えることができる
      • 安野が中高生と喋っている感覚値でいうと、ChatGPTによって中高生がプログラミングを学ぶスピードが圧倒的に早くなってきている
      • 親が子にChatGPTを与えるか与えないかによって圧倒的な差が出ている可能性がある
    • 中高生向けに学習支援用AIをホスティングして提供することのコストは、1年程度で現実的な水準になるのではないか
      • 仮に現時点で月$20のChatGPTのPlusプランを70万人の東京の中高生にくばると200億円規模の予算
      • 1年で同等の賢さを発揮するAIの価格が1/10ぐらいになると仮定すると、来年には20億円規模の予算で成立しうるので、十分に実行可能性があるのではないか
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東京都の教育現場におけるAI活用に関する最新研究と事例(2023〜2025)

本レポートでは、2023〜2025年に発表・実施された世界の最新研究や事例をもとに、教育現場への人工知能(AI)導入に関する知見を整理します。特に アメリカ、イギリス、シンガポール、ナイジェリア の動向を中心に、学力向上への寄与、導入コストと費用対効果、教育格差是正への寄与、そして政府の政策的取り組みについて考察します。東京都でのAI活用政策立案の基盤資料として、ご活用ください。

1. AIが学力向上に貢献した具体的な事例

近年、教育分野で活用されたAIは各教科の学習成果向上に寄与する具体的データが報告されています。以下に主要な事例を科目別・地域別に紹介します。

  • 数学教育におけるAIチュータリング: アメリカのスタンフォード大学が2024年に実施したランダム化比較試験(RCT)では、対面式の個別指導にAIアシスタント「Tutor CoPilot(チューター・コパイロット)」を導入しました (How AI can improve tutor effectiveness | K-12 Dive)。この生成AI(大規模言語モデル)ベースのツールは、生徒が誤答した際に人間のチューターへ適切なヒントや質問例をリアルタイムで提案するものです。結果、AI支援を受けたチューターの生徒は、受けなかったグループに比べてセッション内の課題達成率が4ポイント高く、特に指導スキル評価の低いチューターの場合には生徒の習熟度が平均9ポイントも向上しました (How AI can improve tutor effectiveness | K-12 Dive)。この効果により、熟練度の低い指導者による学習遅れが大幅に軽減され、全体として有意な学力向上が確認されています。またこのAIツールの導入コストは低く(後述)、大規模なチュータープログラムにおいて持続可能な手法となり得ることも示されました (How AI can improve tutor effectiveness | K-12 Dive)。

  • 言語・読解分野におけるAI指導: ナイジェリアのエド州で行われた先駆的な実験(2024年)では、生成AIをバーチャル家庭教師として活用した6週間の課外プログラムにより、生徒の英語力が飛躍的に向上しました (From chalkboards to chatbots: Transforming learning in Nigeria, one prompt at a time) (From chalkboards to chatbots: Transforming learning in Nigeria, one prompt at a time)。このプログラムではマイクロソフトのAI(ChatGPT技術を搭載したCopilot)を用いて、生徒が放課後に対話的な英語の練習を行い、教師がファシリテーターとしてサポートしました (Generative AI Proven to Advance Learning Outcomes in Nigeria - ICTworks)。RCTによる評価の結果、参加生徒は非参加生徒に比べて英語の筆記テストで有意に高得点を収めただけでなく、AIリテラシーやデジタル技能についても大きな学習効果が認められました (From chalkboards to chatbots: Transforming learning in Nigeria, one prompt at a time)。特筆すべきは、プログラム未実施の内容も含む学年末試験においても成績向上が見られた点で、AIと効果的に対話するスキルを身につけた生徒は自主学習で他分野も伸ばせる可能性が示唆されています (From chalkboards to chatbots: Transforming learning in Nigeria, one prompt at a time)。学習効果の大きさは約0.3標準偏差に達し、これは通常2年分の学習に相当する進捗を6週間で遂げた計算になります (From chalkboards to chatbots: Transforming learning in Nigeria, one prompt at a time)。このように生成AIを用いた個別学習は、短期間で従来にない学力伸長を実現した好例です。

  • 自動学習システムによる適応学習: アダプティブ・ラーニング(個別最適化学習) の分野でも、AIの効果が確認されています。米国の教育企業Knewtonが開発したAI搭載の学習プログラムに関する大規模調査では、AIを活用したグループのテストスコアが未使用グループより62%向上したとの報告があります (AI in Education Statistics · AIPRM)。このシステムは1万人以上の学生データを解析し、習熟度や理解度のギャップに応じて教材を個別提供するもので、短期間で効率的に学力を伸ばしたとされています (AI in Education Statistics · AIPRM)。イギリスでも、AIに基づく適応型数学練習ソフト「Sparx Maths」の研究(2019年)で、週1時間の利用により生徒の数学GCSE(中等教育修了資格試験)の予測得点が0.18グレード相当向上したとの結果が示されています (assets.ctfassets.net)。Sparxの事例は期間外(2019年)ですが、AI活用による学力向上の傾向を示す参考として言及しています。

  • 文章表現・リテラシーへのAI支援: ブラジルでは、作文指導にAIを活用した「Letrus」というプログラムが注目されています。Letrusは中高生を対象に、AIが作文にリアルタイムでフィードバックを提供し、教師には個々の生徒の進捗データや指導アドバイスを提示するものです (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum)。特に所得階層間で大きな学力差がある問題に焦点を当てて設計されており、導入地域では生徒の文章表現力(ライティング試験成績)が大きく向上しました (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum)。その成果から、同国エスピリトサント州ではLetrusが州内高校の公式リテラシー向上プログラムに採択されています (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum)。また、UAE(アラブ首長国連邦)の教育省が進めるAIパーソナルチューター導入プロジェクトでは、パイロット段階で学習到達度が10%向上したとの報告があり (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum)、批判的思考力の強化などにも効果を上げています。さらにシンガポールでは、小学校数学におけるAI対応の自習システム(Adaptive Learning System)を2023年より導入し、一人ひとりの解答傾向に応じて出題を変化させる実践が始まっています (Artificial intelligence in education | MOE)。こうした事例から、数学・言語を中心にAIは個別最適化による学力向上に寄与しており、多くの国でその有効性が確認・試行されています。

2. AI導入のコストとその効果の試算に関する研究

教育現場へのAI導入にはコストが伴いますが、その費用対効果について各国で試算や分析が行われています。ここでは、導入コストの目安や投資に対する効果予測に関する研究結果を示します。

  • イギリス: 全国導入の費用対効果試算 – イギリスではシンクタンク等による包括的な試算が実施されました。その分析によれば、AIを活用した教育プログラムを全国約26,500校に導入 する場合、初期整備に約4億ポンド(約0.01%のGDP)、年間維持費に約12億ポンド(GDPの0.04%) が必要と見積もられています (ctfassets.net)。この費用には、デジタルインフラの整備(機器導入や学習者IDシステム構築)、教師研修、新規ソフトウェア調達等が含まれます (ctfassets.net) (ctfassets.net)。一方でモデルによる長期予測では、AIによる学力向上効果(平均で学力6%向上と仮定 (ctfassets.net))により将来的な労働生産性が上昇し、GDPが長期的に約6%押し上げられるとの試算結果が得られました (ctfassets.net)。歳出入への影響を見ると、導入当初10年程度は投資コストが上回るものの、2040年代前半には損益分岐点を迎え (ctfassets.net)、2050年までに累積効果が費用の2.7倍に達し、2070年には7.7倍に拡大すると予測されています (ctfassets.net) (ctfassets.net)。50年後には年間の政府借入をGDP比2%圧縮し、累積の公的債務をGDP比30%削減できる可能性が示されており (ctfassets.net)、長期的には費用を大きく上回る便益が見込まれます。これらは仮定に基づく推計ではありますが、AI導入が将来的に**「投資する価値のある政策」**であることをデータで裏付けています。

  • 米国: AIツール導入コストの事例 – 米国スタンフォード大学のTutor CoPilot実験では、AIツールのコストは年間1人のチューター当たり約20ドル程度と試算されています (How AI can improve tutor effectiveness | K-12 Dive)。この程度の費用負担であれば、大規模な学区でも予算内で数多くのチューターを支援でき、従来の対面研修より低コストで指導力を底上げできると指摘されています (How AI can improve tutor effectiveness | K-12 Dive)。他の商用AI教育サービスも、クラウド上の月額ライセンスや利用者数に応じた料金モデルを採用しており、単校規模で見た場合には 1生徒あたり数十〜数百円程度/月 で利用可能な例が増えています(例: 米国Quizlet社の調査では多くの教師が無料または安価なAIツールを試行的に利用中 (AI in Education Statistics · AIPRM) (AI in Education Statistics · AIPRM))。一方、人間の家庭教師を個別に付ける場合、1時間あたり数千円〜1万円以上の人件費がかかることと比較すると、AIチューターは極めて低コストで広範囲の生徒に学習支援を提供できる計算になります。実際、ナイジェリアの前述の課外プログラムでは**「無料の生成AIツール」** (ChatGPTベースのシステム)を活用したため、ソフトウェアライセンス費はゼロでした (Generative AI Proven to Advance Learning Outcomes in Nigeria - ICTworks)。必要だったのはPCやインターネット環境、および担当教師の研修や手当程度であり、 一人当たりの追加コストをごく低く抑えつつ大きな学習効果を得られた 点が強調されています (Generative AI Proven to Advance Learning Outcomes in Nigeria - ICTworks)。このように、クラウドAIの活用は初期投資こそ多少必要なものの、一度環境を整備すればスケールメリットにより生徒一人あたりの単価は低減し、費用対効果が高いことが各種事例から示唆されます。

  • コスト低減とオープンリソースの活用 – AI教材のコストに関しては、オープン教育資源(OER)の活用が鍵となるとの指摘もあります。前述のKnewton社のプログラムでは、教材コンテンツの90%をオープンソースでライセンス供与することで教材費を抑制し、多くの学生に手頃な価格で提供可能にしました (AI in Education Statistics · AIPRM)。コスト削減により経済的ハードルが下がれば、結果としてより多くの学生がAI教材にアクセスでき学力向上の機会が拡大するため、教育格差の是正にも繋がります (
    AI in Education Statistics · AIPRM
    )。さらに、教師の業務効率化も経済効果の一つです。例えば米国で普及が進むAI採点支援ツール「Gradescope」は、答案の自動グルーピングと採点補助により教員の採点時間を70%削減したとの報告があります (
    AI in Education Statistics · AIPRM
    )。これにより教師人件費や負担が軽減され、その時間を生徒指導に振り向けることで教育効果を高める好循環が期待できます (
    AI in Education Statistics · AIPRM
    )。総じて、AI導入のコストは決して小さくないものの、効率化とスケールによって投資に見合う効果が得られる可能性が高く、各国の分析でも肯定的な見積もりが示されています。

3. AIによる教育格差の是正や公平なアクセスの実例

AIの教育活用は、地域差・経済格差・個人差を問わず学習機会を提供し得るツールとしても注目されています。ここでは、AIが教育の公平性向上に寄与した実例をいくつかの観点から紹介します。

  • 経済格差・地域格差の是正: 前述のナイジェリア・エド州の事例は、経済的に恵まれない地域の公立校の生徒が無料のAIチューターによって学習機会を拡充できた好例です (Generative AI Proven to Advance Learning Outcomes in Nigeria - ICTworks)。このプログラムでは、生徒たちは放課後に自宅や教室でAIと対話しながら学習し、追加の塾や高価な教材に頼らずとも大きな学力向上を実現しました。結果として、裕福な層のみが家庭教師を付けられるといった従来の格差を埋める効果が確認されています。また、ブラジルのLetrusは低所得層の学力底上げに注力しており、同プログラム採用地域では所得水準による成績差(文章力)が縮小する成果が報告されています (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum) (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum)。さらに、西アフリカ・マリの教育系スタートアップKabakoo Academiesでは、正式な高等教育や雇用機会が限られた若者に対し、AIのバーチャルメンターが24時間支援を提供しています (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum)。SNSやローカルの協力ネットワークを通じて若年層にリーチし、AIメンターがスキル習得や課題解決のアドバイスを行った結果、プログラム完了後6ヶ月で収入が平均44%増加したとのデータもあります (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum)。これは教育を通じた貧困削減の観点でも示唆に富む成果であり、AIが地理的・経済的ハンデを超えて機会を提供した例と言えます。

  • 学力格差(習熟度差)の是正: AIは一斉授業では対応しきれない個々の習熟度に応じた指導を可能にするため、学力下位層の底上げに寄与します。例えば、生成AIによる文章作成支援に関する研究では、AIは低パフォーマーの成果を大幅に引き上げ、高パフォーマーとの差を約半分に縮小できることが示されました (ctfassets.net)。これは、ChatGPTのようなツールが不得意な学習者にもヒントや例示を与え、自力解決力を高める効果によるものです。同様にスタンフォードのTutor CoPilot実験でも、指導力の低いチューター(往々にして経験の浅い新人や資源の乏しい地域に配属されがち)が指導する生徒の成績が、AIの助けで指導力の高いチューターが担当した生徒と遜色ない水準にまで改善しました (Stanford’s AI-Assisted Tutoring Study — AI for Education) (Stanford’s AI-Assisted Tutoring Study — AI for Education)。このように、AIは教師や生徒の**「伸びしろ」を特に下位層で大きく引き出す**ことで、クラス内や学校間の学力格差是正に貢献します。

  • 障害のある学生への支援と学習アクセシビリティ: AI技術は、従来サポートが難しかった障害児の学習支援にも有効です。国連児童基金(UNICEF)は、世界の2億4千万の障害をもつ子ども達のためにAI搭載のデジタル教科書を開発しています (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum)。これら教材は手話動画、対話的な練習問題、音声での説明、テキスト読み上げなどの機能を備え、各自のニーズに応じてコンテンツを適応可能です (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum)。例えば聴覚障害のある生徒には手話動画で内容を提示し、視覚障害のある生徒には音声へ変換するといった形で、一人ひとりにアクセシブルな教材提供が実現します。さらにオフライン環境でも利用できるよう設計されており、インターネット未整備地域の子ども達でも恩恵を受けられます (5 ways AI can benefit education | World Economic Forum)。シンガポールでも2023年末より英語ライティングのAIフィードバックアシスタントを導入し、スペルミスや文法誤りを自動指摘することで教師がより高度な作文指導に注力できる環境を整えました (Artificial intelligence in education | MOE)。この取り組みは、学習障害(例:ディスレクシア〈読字障害〉)を持つ生徒の基礎的な文章表現を支える効果も期待されています。総じて、AIは多様な学習者に寄り添うツールとなりうるため、適切に活用することで教育の包摂性(インクルーシブネス)と公平性を飛躍的に高めることができます。

4. AIを活用した教育政策や政府の取り組み

世界各国の政府は、教育におけるAIの可能性と課題を認識し、さまざまな政策的取り組みを進めています。ここではアメリカ、イギリス、シンガポール、ナイジェリアの動向を中心に、政府レベルの戦略・施策とその成果や課題を概観します。

アメリカの取り組み

アメリカでは、連邦レベルで教育分野のAI活用指針が打ち出されています。2023年に米国教育省(DOE)の教育技術局は報告書「人工知能と教育の未来: 知見と提言」を公表し、教育におけるAI活用の原則や推奨事項を示しました ([PDF] Artificial Intelligence and the Future of Teaching and Learning (PDF))。この中では、AIを教師の負担軽減や指導強化に活かす一方で、人間の教師の役割と責任を常に中心に据えることや、AIの判断に無批判に依存しないことなど、安全で倫理的、公平な活用の重要性が強調されています (U.S. Department of Education publishes recommendations for AI use) (State AI Guidance for Education)。例えば、生成AIは自動フィードバックや教材作成で有用である反面、偏見や誤情報を含む可能性もあるため、**「AIは教育者の判断を補助するツールであり、最終的な判断は人間が行うべき」**との方針が示されています (U.S. Department of Education publishes recommendations for AI use)。

また、州政府レベルでもガイドライン策定が進んでおり、2024年時点で少なくとも25の州教育局がK-12(初等中等)におけるAI使用に関する公式指針やポリシーを発表しています (State AI Guidance for Education)。具体的には、生徒のAI利用に関する倫理指導、教師向けのAI研修、データプライバシーの確保など、多岐にわたる項目が各州で検討されています。例えばニューヨーク市教育局は当初、ChatGPTの校内利用を懸念して一時的にアクセス禁止措置を取ったものの、その後AIリテラシー教育とガイドライン整備を条件に学校での適切な活用を容認する方向へ舵を切りました(2023年中頃)。連邦議会でも超党派で教育AIに関するガイダンス法案が提出されるなど(2024年6月) (How AI can improve tutor effectiveness | K-12 Dive)、政策的な議論が加速しています。さらに、米国国立科学財団(NSF)はAIと教育に関する研究センターへの助成を拡充しており、AIを活用した学習科学や教育格差是正の研究プロジェクトが推進されています。

イギリスの取り組み

イギリスでは、政府が教育へのAI導入を積極的に支援・規制整備しようとする姿勢を見せています。2023年には教育省(DfE)が「教育における生成AIに関するコールフォーエビデンス(意見募集)」を行い、教育現場や専門家からのフィードバックを踏まえて2024年に指針をまとめました (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK) (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK)。2025年1月には政策文書「教育における生成AI」が公開され、安全かつ効果的にAIを活用するための原則を提示しています (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK) (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK)。その中で特に強調されているのは、「あらゆる子どもが背景に関係なくAIの恩恵を受けられること」と「教師が本来の指導に専念できるようAIが雑務を支援すること」です (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK) (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK)。

具体的施策として、イギリス政府は教員の業務削減に資するAIツール開発に投資しています。2023年8月、ラーニング支援プラットフォーム「Oak National Academy」に対し400万ポンドの予算を投じ、カリキュラム文書や教材データを集約した 「コンテンツストア」 の構築と、それを活用した教師向けAIアシスタントの開発に着手しました (Investment, Safety & the Importance of Public Sentiment: The New Government’s focus on AI for Education.) (Investment, Safety & the Importance of Public Sentiment: The New Government’s focus on AI for Education.)。このプロジェクトから生まれたのが、教師の授業計画作成を支援するAI搭載ツール「Aila(アイラ)」で、既に試験運用が始まっています (
Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK
)。Ailaは膨大な教材データベースをもとにレッスンプランのひな型や教材アイデアを提示してくれるもので、教師の準備時間を削減しつつ質の高い指導を実現する狙いです (
Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK
) (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK)。また、民間のAI企業によるフィードバック・採点支援ツールにも助成金を拠出し(100万ポンドのAI教育ツール公募コンペ)、革新的なアイデアの育成を図っています (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK)。

教育現場への周知と安全確保にも注力しており、教師・校長向けにAI活用のための研修パッケージオンラインツールキットを提供する計画です (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK)。教師からは「AIの安全な使い方に関するトレーニングが不足している」という声が多く寄せられたため、それに応える形でリソース整備が進められています (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK)。さらに、教育監査機関であるOfsted(オフステッド)に委託して先行校のAI活用事例調査を開始しました (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK)。これはAIを積極導入している学校やカレッジで、AIの教育効果やリスク管理、校長の役割などを調べ、今後の指針策定に反映する目的があります (Generative artificial intelligence (AI) in education - GOV.UK)。

このようにイギリスは、「教師の負担軽減」と「エビデンスに基づく慎重な導入」 をキーワードに据え、政策支援と規制整備を両輪で進めている状況です。もっとも、現場からは生成AIによるカンニングや批判的思考力の低下を懸念する声もあり、政府はそのバランスを取るべくガバナンス体制(例えば学校ごとのAI利用ポリシー策定支援等)を模索しています (AI Opportunities Action Plan - GOV.UK)。

シンガポールの取り組み

シンガポールは国家的にデジタル技術活用を推進する「スマート国家(Smart Nation)」戦略の一環として、教育分野でもAI導入に先進的に取り組んでいます (Artificial intelligence in education | MOE) (Shockwaves and innovations: How nations worldwide are dealing with AI in education – Center on Reinventing Public Education)。2030年EdTechマスタープランでは、AIを活用した個別学習の充実と教師の専門能力強化が柱に据えられています (Artificial intelligence in education | MOE)。

教育省(MOE)は、公教育向けオンライン学習プラットフォーム「Student Learning Space (SLS)」にAI機能を段階的に実装中です。2023年6月には小学5年の数学を対象に、SLS上で動作する**「Adaptive Learning System」**を導入しました (Artificial intelligence in education | MOE)。これは機械学習により生徒の回答パターンを分析し、理解度に応じて出題内容や難易度を調整するシステムです。各生徒が自分のペースで弱点補強できるため、早期につまずきを解消し学力底上げを図る狙いがあります (Artificial intelligence in education | MOE)。今後、この適応学習システムは他の学年・科目にも順次拡大される計画です (Artificial intelligence in education | MOE)。

また2023年12月からは、英語のライティング指導と記述式解答の評価にAIを活用した 「Learning Feedback Assistant」 をSLS上で提供開始しました (Artificial intelligence in education | MOE) (Artificial intelligence in education | MOE)。これは二つのAIアシスタントから成り、ひとつは**「Language Feedback Assistant」として英文のスペル・文法について即座に基本的フィードバックを返すものです (Artificial intelligence in education | MOE)。これにより教師は機械が指摘できる表層的ミスではなく、創造的表現や説得力といった高次スキルの指導に注力できます (Artificial intelligence in education | MOE)。もうひとつの「Short Answer Feedback Assistant」**は、記述式問題の模範解答例や採点ドラフトを自動生成し、教師の採点作業を補助します (Artificial intelligence in education | MOE)。教師はAIが提案した下書きをたたき台にコメントを修正・追加することで、フィードバックにかかる時間を短縮できます (Artificial intelligence in education | MOE)。

さらに、人材育成面でも教員と生徒双方のAIリテラシー向上に注力しています。シンガポール政府は2023年、「全国AIリテラシー向上イニシアチブ」を発表し、2026年までに全ての教員(教員養成段階の者も含む)にAI活用の研修を提供する計画を示しました (Shockwaves and innovations: How nations worldwide are dealing with AI in education – Center on Reinventing Public Education)。これにより教師自身がAIのメリット・リスクを正しく理解し、授業や校務に活かす素地を整えています。また学生向けにも、AIの仕組みやリスク・恩恵を教えるカリキュラム標準を策定中です (Shockwaves and innovations: How nations worldwide are dealing with AI in education – Center on Reinventing Public Education) (Shockwaves and innovations: How nations worldwide are dealing with AI in education – Center on Reinventing Public Education)。小中高校で段階的にAIに触れさせ、将来のデジタル人材育成とリテラシー醸成を図っています。

このようにシンガポールでは、国家戦略として教育AIを位置づけ、カリキュラム・プラットフォーム・人材育成の全方位から体系的に導入が進められています。その背景には、少子高齢化に伴う人材育成の効率化や、個々の才能を伸ばす教育への期待があります。同国の事例は、明確なロードマップと官民連携による計画的実施という点で東京都にとっても参考になるでしょう。


以上、各国の最新事例と研究動向を概観しました。AIは適切に導入すれば学力向上と教育の公平性確保に大きく資する一方、インフラ整備や教師研修、倫理面のガイドライン整備など政策的な下支えが不可欠であることが共通の教訓として浮かび上がっています。東京都が教育現場でAI活用を進めるにあたっては、これら先行事例の成果と課題の双方から学び、効果検証に基づくエビデンス重視のアプローチを取ることが望まれます。また、教師や生徒が安心してAIを活用できる環境整備(研修制度、指針策定、ICTインフラ投資等)を行うことで、東京発の成功事例を生み出すことも可能になるでしょう。グローバルの知見を活かしつつ、地域の実情に即したAI教育政策を構築することが、これからの教育イノベーションに向けた鍵となります。

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ナイジェリアの取り組み

ナイジェリアはアフリカ最大の人口を抱え、教育へのAI導入にも関心を高めています。2023年には政府がAIを初等教育のカリキュラムに統合する方針を打ち出し、全国的なAI教育カリキュラムの策定作業が始まりました (How Nigeria stepped up its AI game in 2023)。具体的には、プログラミング教育の一環としてAIの基礎概念を教える内容を小学校段階から盛り込む計画で、これにより次世代の人材がAI時代に必要な知識・スキルを身につけることを目指しています (How Nigeria stepped up its AI game in 2023)。また同時期に、政府主導で国家AI戦略の策定が開始され、NITDA(国家情報技術開発庁)や有識者が集められてAI利活用のロードマップ作成が進められました (How Nigeria stepped up its AI game in 2023)。この国家AI戦略には教育も重要な柱として位置づけられており、AIを活用して国内の「深刻な社会課題を解決する」一環として教育改革が議論されています (How Nigeria stepped up its AI game in 2023)。

他方で、ナイジェリアにおける具体的な教育AI導入事例はまだ限られています。前述のエド州でのパイロットプログラムは、州政府と世界銀行、地元教育団体が協働して実施したもので、政府としてもこうした新技術の効果を検証する段階にあります (From chalkboards to chatbots: Transforming learning in Nigeria, one prompt at a time) (Generative AI Proven to Advance Learning Outcomes in Nigeria - ICTworks)。エド州政府はこの成功を受け、プログラムの継続と他地域展開を検討しており、連邦教育省にも報告が上がっています。課題としては、インフラ(電力・通信)の未整備教師のITスキル不足が指摘されています (Generative AI Proven to Advance Learning Outcomes in Nigeria - ICTworks)。特に農村部や治安上問題のある地域では、まず学校にコンピュータやインターネットを届けることが優先され、AI活用は中長期的な課題となっています。そのため、政府や支援機関は電力事情を改善するための太陽光発電導入や、オフラインでも使えるAI教材の開発などに注目しています。

総じて、ナイジェリア政府はAIを将来の成長分野と捉えて教育への組み込みを図る初期段階にあり、政策フレームワーク作りと小規模実証が進行中です。教育の質向上や格差是正は喫緊の課題であり、エド州の成功事例はAIが一助となり得ることを示しました。ただし、全国レベルで展開するにはインフラ投資や人材育成が不可欠で、国際的な支援や官民連携も取り入れながら慎重にステップを踏んでいる状況です。

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6. 倫理的・社会的課題

AIの教育利用には、倫理的および社会的な懸念も数多く存在します。以下では偏見・差別の助長リスク、データプライバシーの問題、教育の自動化による社会的影響という観点から考察します。

(1) アルゴリズムの偏見と公平性:
AIは学習データに含まれるバイアスをそのまま反映する危険があります。教育分野でも、例えばAIによる成績評価や進路指導システムが過去のデータに基づいて判断を下す際、性別や人種、地域などによる無意識の偏りを引き継ぐ可能性があります (How Does AI Affect Education Negatively? Understanding the Challenges and Risks – eSelf AI)。前述したイギリスの事例はその典型で、社会的弱者の多い学校の生徒が一律に評価を下げられるなど、AIの判断が不公平を拡大し得ることを示しました (“F**k the algorithm?”: What the world can learn from the UK’s A-level grading fiasco | Impact of Social Sciences)。米国教育省の報告書も「アルゴリズムの偏りが意図せぬ差別を生み、教育における公平性を大規模に損なう恐れがある」と警告しています (Will AI in Schools Widen the Digital Divide?)。具体的には、AIが過去の試験結果や懲戒記録を学習していると、特定の人種・所得層の子どもを低く評価したり、進学推薦をしないといった差別的な出力をする危険があります。教育の場でこのような差別が起これば、生徒の将来を不当に制限し、機会の平等という教育理念に反します。AIを導入することで公平性・公正性に疑義が生じるなら、本末転倒であり受け入れられません。

(2) データプライバシーと監視社会化:
AIを高度に活用しようとすればするほど、大量の個人データ収集が不可避となります (AI is a serious threat to student privacy)。個々の生徒に最適化した指導を行うAIシステムを想定すると、成績や回答傾向はもちろん、家庭環境(保護者の収入・学歴)、生活リズム、SNSでの発言傾向、場合によっては健康情報や感情データに至るまで、膨大で詳細な個人情報を収集・解析することになります (AI is a serious threat to student privacy)。米国の教育学者ジョン・ハッティ氏は「AI教育ソフトが本当に機能するには、生徒のメッセージ履歴や家庭環境、GPS位置情報、出欠記録、生体情報に至る膨大なプライベートデータへのアクセスが必要になる」と指摘しています (AI is a serious threat to student privacy)。このようなデータは極めてセンシティブであり、収集には慎重な配慮と本人・保護者の同意が不可欠です。

また、これだけの個人データを扱えば情報漏えいのリスクも高まります。実際、アメリカではオンライン試験監督サービスがハッキングを受け、44万4千人分の学生データが流出する事件も発生しています (AI is a serious threat to student privacy)。日本でも学校の成績データや健康情報が漏洩した場合、生徒のプライバシー侵害や不利益は計り知れません。さらに、生徒が常時監視されていると感じるようになると、萎縮効果によって自由な思考や表現が阻害される懸念もあります (AI is a serious threat to student privacy)。監視社会を描いた「パノプティコン」の例えのように、生徒たちが「常に見張られている」環境ではびくびくして本音を出せず、創造的で伸び伸びとした学習ができなくなるとの指摘があります (AI is a serious threat to student privacy)。実際、全米州教育委員会連合の報告書によれば、過度なセキュリティ監視は「生徒が安心して自由に発言できる環境を損ない、教師と生徒の信頼関係を阻害する」ことが示唆されています (AI is a serious threat to student privacy)。

(3) 教育の自動化がもたらす社会的影響:
教育現場へのAI導入は、教育のあり方そのものを変容させ、社会にも影響を及ぼします。まず懸念されるのは、教育の画一化・工業化です。AI教材や学習プログラムが標準化され大量導入されると、地域や学校ごとの創意工夫が失われ、教育が企業提供の画一サービスのようになる恐れがあります。山内氏は、GIGAスクールに関連する「未来の教室」プロジェクトなどについて、「学校教育の市場化」や「新たな既得権益化」 であると批判しています (山内 康一 | GIGAスクール 4,800億円のコスパ)。つまり、教育が企業主導のビジネスの場となり、公教育の公共性が損なわれる危険があるということです。実際、教育AI市場は急速に拡大しており、世界の教育AI関連支出は2022年の21.3億ドルから2030年には257.7億ドルに達すると予測されています (AI to Experience Massive Growth in Education – THE Journal)。こうした巨額市場では、一部の大企業が教育データやシステムを独占し、教育政策に影響力を持つ可能性があります。公立教育の場に営利目的の論理が入り込めば、教育の目的が子どもの成長よりも効率や収益優先に傾くリスクも無視できません。

さらに、教育の自動化が進めば、将来的に教員職の縮小や雇用問題にもつながりかねません。短期的にはAI支援で教師を補助する形でも、長期的にAIチューターやロボット教師が高度化すれば教員数を減らそうという圧力が生じる可能性があります。これは教員の質的低下だけでなく、雇用の問題として教員組織や社会に波紋を広げます。教育は単なるコストではなく将来への投資であり、人件費削減の対象とすべきではありませんが、AI導入が「効率化」の名目でそうした議論を招く危険にも留意が必要です。

最後に、人間性の涵養という教育本来の目的への影響も考えねばなりません。AIによる効率的学習ばかりを追求すると、共感力やコミュニケーション能力、道徳観といった人間性を育てる部分が軽視される恐れがあります (How Does AI Affect Education Negatively? Understanding the Challenges and Risks – eSelf AI)。教育とは知識伝達のみならず、人との触れ合いや葛藤を通じて人間的成長を遂げる場でもあります。AI中心の学習ではそのような「人間としての学び」が不足し、将来社会で必要となるソフトスキルや倫理観が十分育たないリスクがあります。以上のように、AI導入には技術的側面以外に深い倫理・社会的問題が横たわっており、拙速な導入は世代を超えた影響を及ぼしかねません。

政策提言:AIに頼らず教育の質を向上させるために

上記の課題を踏まえ、東京都における教育の質向上はAI技術に安易に依存せず、人間主体のアプローチで実現すべきです。具体的には以下の政策的代替案を提言します。

1. 教員の充実と少人数学級の推進:
人的リソースへの投資こそ教育改善の王道です。まず、教員数を増やし学級規模の縮小を進めることで、一人ひとりの生徒に向き合う時間と質を確保します。研究によれば、学級規模の縮小は特に初等教育段階の学習成果にプラスの影響を持つことが広く認められています (
What the research says: Class size does matter
)。東京都として、教員採用を拡大するとともに財政支援を通じて公立学校の少人数学級編制を推進します。教員がゆとりを持って指導・相談できる環境を整えることで、生徒の理解度向上や学習意欲喚起につなげます。AIではなく**「人手を増やす」**ことで教育の質を底上げする方針です。

2. 教員の専門性向上と支援体制強化:
AIに頼らずとも授業の質を高めるため、教師の指導力向上に注力します。具体的には、教師への研修機会拡充(アクティブ・ラーニングやICT基礎活用の研修等)、熟練教員と若手教員のペア指導制度、新しい教材研究への補助などを行います。教師が創意工夫し続けられるようサポートし、「AI任せでなく教師自ら教材・指導法を磨く」文化を醸成します。また、学習支援員やスクールカウンセラーの増員など教員を支える人員配置も充実させ、教員が生徒対応や課題研究に十分時間を割けるようにします。こうした投資によって教師のモチベーションと指導の質を高め、生徒へのきめ細かな教育を実現します。

3. 生徒の主体的な学びと思考力を育む教育改革:
AIに代替されない力として、生徒の考える力・創造する力を育成する教育手法を推進します。具体的には、問題解決型学習(PBL)や討論・探究学習の充実、課題の複数解法を考えさせる指導など、生徒が自分の頭で考え表現する授業への転換を図ります。例えば東京都内の学校でモデル事業として探究学習プログラムを拡大し、AIが容易に答えを出せないようなオープンエンドの課題に取り組ませます。加えて、メディア・リテラシー教育AIリテラシー基礎教育も導入し、生徒自身がAIの出力を鵜呑みにせず批判的に評価できる能力を養います。これは将来AI社会を生きる上でも不可欠な力です。要は、**「人間にしかできない学び」**を重視したカリキュラム改革を行い、思考力低下の懸念に対処します。

4. 教育格差是正に向けた支援策の強化:
AIに頼らず教育格差を是正するため、経済的・環境的に不利な児童生徒への支援を拡充します。具体的には、就学援助や奨学金の拡大、放課後学習教室・個別補習の充実、地域ボランティアや大学生チューターによる学習支援プログラムの強化などです。家庭にICT機器や学習支援がない子にも学校で十分学べる環境を提供し、家庭環境差を埋めます。また、学校と家庭・地域をつなぐ仕組みとして、保護者向け学習支援講座や地域の学習ボランティア制度を設け、家庭ぐるみで子どもを支える体制を作ります。こうした人的・社会的支援によってデジタルデバイドや家庭環境のハンデを緩和し、全ての子どもが公平に学べるようにします。必要に応じてタブレット等の機器も配備しますが、その際は単に渡すのではなく使い方の指導やネット環境整備まで含めて支援し、「道具を持たせっぱなし」にしない運用を徹底します。

5. 教育ICTの活用は基礎的部分に限定し慎重に:
AI自体の活用を頭ごなしに否定するものではありませんが、その導入は教育効果が明確で、安全性・公平性が担保できる範囲に限定すべきです。例えば、事務作業の効率化や既存のICT教材(電子黒板やドリル学習ソフトなど)の活用といった基礎的ICT整備は引き続き推進しつつ、生成AIのような高度な技術の導入は慎重に検証します。どうしてもAIツールを試用する場合でも、教師主導の下で補助的に使い、生徒が依存しないガイドラインを設定します。また、AI活用に際しては明確な倫理基準・プライバシー保護ルールを東京都教育委員会として策定し、データの取り扱い透明性や偏見是正措置を義務付けます。要するに、「人間が主導権を持ち、AIはツールに徹する」との原則を貫きます。こうした枠組みの中で、限定的な範囲でAIの有益な側面(例:特定の練習問題の自動採点など)があれば取り入れる余地は残しつつ、本質的な教育は教師と生徒の対話を核に据えます。

6. 教育予算の重点的かつ効率的な配分:
限られた教育予算を最大限に活かすため、費用対効果の高い施策に資源を振り向けます。AI導入にかかる巨額の費用は、上述のように人的資源充実や学習支援策にシフトすることが望ましいです。例えば、都として独自予算で経済的困難を抱える家庭への学用品・給食費支援を拡大したり、老朽化した学校施設の改修や図書館の充実など、直接子どもの学習環境向上に寄与する分野に投資します。これは教育の土台を整備し、間接的に学力向上や不登校減少などの成果につながります。また、新規のハイテク機器購入よりも、既存設備の有効活用や教職員の処遇改善に充てることで持続可能な効果を狙います。東京都は財政規模が大きいとはいえ、無限に資金があるわけではありません。ゆえに、投資に見合う確かな成果が見込める政策を優先し、不確実な効果しかないAI大型プロジェクトは見送るのが賢明です。

おわりに

教育へのAI導入は世界的な潮流ではあるものの、東京都においてはその功よりも弊が勝る可能性が指摘されます。本レポートで論じたように、AI導入は教育格差の拡大、教師の役割低下、思考力の阻害といった深刻なリスクを孕み、費用面でも大きな負担を伴います。加えて、倫理的課題や社会的影響も看過できません。むしろ今求められるのは、人間中心の教育を充実させる地道な施策の積み重ねです。

東京都はこれまで高い教育水準を維持し、多様な教育プログラムに取り組んできました。その強みを活かし、最新技術に飛びつくのではなく、教師と生徒が直接向き合う質の高い授業づくりや、どの子も取り残さない手厚い支援に注力すべきです。それが結果的に将来AI時代を生き抜く力(人間力や創造力)を育むことにもつながります。AIはあくまで道具であり、教育の主役は人間です。東京都の教育政策がこの原点を踏まえ、慎重かつ賢明な判断を下すことを強く期待します。そして、本提言を契機に、子どもたちのための最良の教育のあり方を改めて議論し、豊かな学びを実現する政策が展開されることを望みます。

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AIへのアクセスを配るにあたって「子供とAIの1対1の密室コミュニケーション」 ではなく、教室に副担任やTAのような形で配備することが考えられる。

  • 子供が「他の子どもがどのように活用しているか」を見ることができる
  • 教師が子供の関心事を知ることができ、書籍や市民講座などをお勧めする機会になる
  • 大人がレビューできるようにすることで子供とAIを会話させることに対する不安感の解消、失敗事例を速やかに共有してフィルタやシステムプロンプトの改善に繋げられる
  • "現時点で月$20のChatGPTのPlusプランを70万人の東京の中高生にくばると200億円規模"の部分が個人単位からクラス単位に変わって数十分の一の価格になる
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現在までの議論をもとに、AIによる意見まとめが生成されました!

特に「教育現場へのAI導入は、生徒の能力(学力・人間性)にどのような影響を与えるか?」という点について、活発な議論が交わされています。

AI導入による学力向上と人間性への影響:新たな視点

大きく分けて、AI導入による学力向上を期待する意見と、人間性軽視の懸念を示す意見が対立しています。しかし、どちらか一方を選ぶのではなく、両方の側面を考慮した上で、AIを教育現場でどのように活用していくべきかを議論する必要があります。

1. 学力向上&効率化期待派

この意見では、AIを活用した個別学習支援、学習効率の向上、教師の業務軽減などを期待する声が多数を占めています。特に、学習に困難を抱える生徒への支援や、教育格差是正への有効性が強調されています。具体的な例として、AIチューターによる個別指導、自動採点システム、適応学習システムなどが挙げられています。

メリット:

  • 学習効率の向上
  • 個別最適化された学習
  • 教師の業務負担軽減
  • 教育格差の是正

デメリット:

  • コスト
  • プライバシー問題
  • AIによる偏見
  • 教師の役割の変化

**トレードオフ:**AIによる効率化を追求すると、教師との人間関係構築や社会性育成といった非認知能力の育成がおろそかになる可能性があります。リソースには限りがあるため、AI導入による効率化と、教師による人間関係構築の両立をどのように図るかが課題です。

2. 人間性軽視懸念派

この意見では、AI導入による教育の画一化、人間性軽視、プライバシー侵害などのリスクが懸念されています。AIのアルゴリズムにおける偏見、生徒の監視、教育の工業化などが問題視されています。また、巨額の費用をAIシステムに投資するよりも、教員の充実や教育環境の改善に予算を充てるべきという意見も存在します。

**メリット:**現状維持による人間性の重視

デメリット:

  • 教育の非効率性
  • 教育格差の拡大
  • 教員の負担増加

**トレードオフ:**AI導入による効率化を諦め、人間中心の教育に注力すると、教育の遅れや、教育格差の拡大が懸念されます。現状維持が必ずしも最善の策ではないことを踏まえ、より効果的な教育方法を模索する必要があります。

議論を深めるために

上記2つの意見以外にも、様々な可能性があります。例えば、AIの倫理ガイドラインの策定、AIリテラシー教育の推進、AIと人間の協働による教育モデルの構築など、多角的な視点からの議論が必要です。

より建設的な議論のためには、以下の点について具体的な提案を交えて議論を進めていきましょう。

  • AI導入による具体的なメリット・デメリットを、数値データや具体的な事例を交えて提示する
  • AI導入に伴うリスクを軽減するための具体的な対策(倫理ガイドライン、プライバシー保護対策など)を提案する
  • AIと人間の協働による教育モデルを具体的に提案する
  • AI導入による費用対効果を分析し、コストとベネフィットのバランスを議論する

皆様からの積極的なご意見をお待ちしております!

AIを配布することに対する反対ポジションもリサーチしてみた

東京都における教育AI導入への反対政策提言

はじめに

東京都教育委員会などが検討する教育へのAI(人工知能)導入について、慎重な議論が求められています。本提言レポートでは、AI活用による 教育上のリスク弊害 を6つの観点から分析し、AIに頼らずに教育の質を向上させるための政策的代替案を提示します。特に、教育格差の拡大、教員の役割低下、学習の質や思考力の低下、コスト負担、国際的事例、倫理的・社会的課題という視点でAI導入への反対論を展開し、それらを踏まえた具体的な政策提言を示します。

1. 教育格差拡大の懸念

AIの教育導入により、家庭環境による教育格差が一層広がる可能性があります。経済的に余裕がありICT環境が整った家庭の子どもは、学校で提供されるAIツールを家庭でも十分活用できる一方、経済的に困難な家庭ではデバイス不足やネット環境未整備により恩恵を受けにくくなる懸念があります (オンライン授業の拡大を妨げる家庭のIT環境格差|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト) (「デジタル教育格差」コロナ禍で浮き彫りに 所得や地域で大きな差、教職員も負担増…解消するには? | 東京すくすく)。実際、Brookings研究所は「裕福な子どもはAIを含む技術とそれを使いこなす人材の両方にアクセスできるが、貧しい子どもは技術にしかアクセスできない」新たなデジタルデバイドの出現を指摘しています (AI and the next digital divide in education)。家庭のIT環境や保護者のITリテラシーの差異がオンライン学習への参加度に影響することは、コロナ禍のオンライン授業でも明らかになりました (オンライン授業の拡大を妨げる家庭のIT環境格差|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)。こうした状況下でAIを導入すれば、経済格差・家庭環境格差による学習機会の不平等が拡大しかねません (Will AI in Schools Widen the Digital Divide?)。特に家庭に高速インターネットや個人用端末がない子どもは、AI活用型の学習についていけず**「学習から取り残される」**リスクが高まります (Will AI in Schools Widen the Digital Divide?)。教育の機会均等を保障する観点から、AI導入は慎重に検討すべきです。

2. 教員の役割低下と教育の質への影響

AIが教育現場で教師の役割の一部を代替し始めると、教師の存在意義や教育の質の低下が懸念されます。確かにAIは定型的な課題の採点や事務作業を自動化し教員の負担軽減に役立つ側面もあります。しかし、教育とは単に知識伝達だけでなく、人間同士の双方向のやり取りや情緒的サポートによって成り立つものです (【科技暢想】AI不知人情冷暖人類老師難取代- 香港文匯網 - 文匯報) (How Does AI Affect Education Negatively? Understanding the Challenges and Risks – eSelf AI)。AIでは生徒一人ひとりの微妙な感情変化や個性に即した対応が困難であり、教師が果たすきめ細やかな指導や励ましといった役割を十分に代替できません (【科技暢想】AI不知人情冷暖人類老師難取代- 香港文匯網 - 文匯報) (How Does AI Affect Education Negatively? Understanding the Challenges and Risks – eSelf AI)。香港での指摘にもあるように「AIは人情の機微を理解できず、人間教師の温かみは代えがたい」とされ、学生は依然として人間教師による指導を必要としています (【科技暢想】AI不知人情冷暖人類老師難取代- 香港文匯網 - 文匯報)。

さらに、教師自身の専門性低下のリスクも指摘されます。AIに教材作成や課題フィードバックを任せすぎると、教師が自ら工夫して教材研究を行ったり指導法を磨いたりする機会が減り、教育の質が画一化・停滞する恐れがあります (AI in Education - Education Next)。例えば、米国の調査では、AIが生成した授業プランや教材を教師がそのまま受け入れてしまい、十分な吟味や調整を怠る傾向が指摘されています (AI in Education - Education Next)。スピード重視でAI任せにすると、「速さは質に等しくない(speed does not equate to quality)」という問題が生じ、結果的に授業内容の質低下につながりかねません (AI in Education - Education Next)。

何より、教師と生徒の信頼関係や人間的なつながりは、AIでは再現困難です。教育は人と人との関わり合いの中でこそ深まるものであり、AI導入によって教師の役割が軽視されれば、生徒の学習意欲や安心感に悪影響が及ぶでしょう (How Does AI Affect Education Negatively? Understanding the Challenges and Risks – eSelf AI) (How Does AI Affect Education Negatively? Understanding the Challenges and Risks – eSelf AI)。世界経済フォーラムの報告でも「教師は教育の中心に据え続けるべきであり、AIはあくまで補助であって教師の代替にはなりえない」と強調されています (AI won’t replace teachers, says this global union)。実際、2023年のある報告書は「AIは生徒の学びの管理者としての教師や保護者の役割を置き換えることはできない」と明言しています (AI in Education - Education Next)。以上の観点から、教師の専門性と人間的な教育の良さを守るためにも、安易なAI導入には反対し、人間教師中心の教育を維持すべきです。

3. 学習の質と思考力低下のリスク

AIに過度に頼る学習は、生徒の主体的な学習能力や思考力の低下を招く恐れがあります。AIを使えば宿題の解答や作文の下書きなどを容易に得られるため、生徒が自ら試行錯誤したり考え抜いたりする機会が減ってしまう懸念があります。実際、教育専門家からは「AIに頼りすぎると問題解決能力や批判的思考力が制限される可能性がある」との指摘が出ています (How Does AI Affect Education Negatively? Understanding the Challenges and Risks – eSelf AI)。米国教育誌の分析でも、テクノロジーへの過度の依存は生徒の学びを阻害し、特に批判的思考の発達を妨げると警鐘が鳴らされています (AI in Education - Education Next)。つまり、答えをAIがすぐに提示してしまう状況では、生徒自身が「考えるプロセス」や「試行錯誤から学ぶ経験」を積む機会が失われてしまうのです。

また、AIによる即時解答に慣れると、学習への粘り強さや探究心が育ちにくくなる可能性もあります。困難な問題に直面したとき、本来であれば生徒は試行錯誤したり周囲と協力したりして乗り越える力を身につけますが、AIが安易に解を与えるとそのプロセスが省略されてしまいます。その結果、「自分で考えなくても答えが得られる」という習慣がつき、学習意欲の低下や受動的な学びにつながりかねません。

さらに、AIによる個別最適化学習には、一見効率的に知識定着を図れる利点がありますが、その過度な最適化は逆に生徒の創造性を奪う可能性も指摘されています。常に生徒の理解度に合った問題だけが提示されると、想定外の難問に挑戦する機会や、自分で課題を発見する力が育たない恐れがあるためです。

現場の例証として、米国のある教育区で導入された「ロボット教師(AIによる自動学習システム)」の実験では、生徒の理解が深まらず学習意欲も低下するという失敗が報告されています。 (The Failed Robo-Teacher Experiment | Broker World)では10歳の児童が「質問もできず内容が理解できない」と毎日のように悔し涙を流し、13歳の生徒は「システムが退屈で集中できない」と学習態度が怠惰になったといいます (The Failed Robo-Teacher Experiment | Broker World)。結局この地区では、生徒・保護者から「ほとんど失敗だった」という評価を受け、後半からは人間の教師がオンライン授業に戻ったところ、生徒は再び意欲を取り戻し成績も向上したと報告されています (The Failed Robo-Teacher Experiment | Broker World)。この事例は、生徒の学習には人間の双方向の関与が不可欠であり、AI任せでは学習の質が著しく損なわれることを示唆しています。

以上より、AIへの過度な依存は生徒の自律的な学びの力や深い思考力の育成にマイナスとなる可能性が高く、こうしたリスクを十分考慮しない教育政策には問題があります。**「考える教育」**を守るためにも、AIに頼りすぎず、生徒が自ら調べ、考え、討論し、表現するといった学習活動を重視する方針が必要です。

4. AI導入に伴うコストの問題

AIを教育現場に導入するには、莫大な初期投資と継続的コストが伴います。その持続可能性や費用対効果を慎重に見極める必要があります。ハード面では、生徒一人ひとりに端末を配布し高速ネットワークを整備するために巨額の費用が必要です。日本ではGIGAスクール構想で国費約4,800億円、地方負担約2,400億円、合計約7,200億円もの公費が投じられました (山内 康一 | GIGAスクール 4,800億円のコスパ)。しかしデジタル端末は一度買えば終わりではなく、平均4~5年で陳腐化し更新が必要です (山内 康一 | GIGAスクール 4,800億円のコスパ)。小中学生が日常的に使えば故障も多く、場合によっては2~3年で買い替えねばならない可能性すらあります (山内 康一 | GIGAスクール 4,800億円のコスパ)。試算によれば、日本全国で端末更新だけでも毎年1,000億円規模の費用がかかる見込みです (山内 康一 | GIGAスクール 4,800億円のコスパ)。加えて、教育用ソフトウェアのライセンス料、クラウドサービス利用料、通信費、さらに機器の維持管理や教員研修・ICT支援員の人件費など、恒常的に膨大なランニングコストが発生します (山内 康一 | GIGAスクール 4,800億円のコスパ)。

一方、こうした費用を投じても、その教育効果が明確でないことも問題です。山内康一氏は「GIGAスクール構想は高コストなのは確実だが、効果のほどはあやしい」と述べています (山内 康一 | GIGAスクール 4,800億円のコスパ)。実際、同氏の指摘によれば、この構想はエビデンスに基づかず進められ、費用対効果の議論が不十分なまま巨額の税金投入が決まった経緯があります (山内 康一 | GIGAスクール 4,800億円のコスパ)。7,200億円もの予算投入に対し、例えば4,430億円あれば全国の小中学校の給食を1年間無償化できると試算されており (山内 康一 | GIGAスクール 4,800億円のコスパ)、それだけの投資に見合う学力向上や教育効果が得られるのか疑問の声もあります。教育ICT化の費用対効果について、「必要なコストは見込めるが、期待される効果は不明」という指摘通り (山内 康一 | GIGAスクール 4,800億円のコスパ)、AI導入においても同様の懸念があります。

さらに、ソフト面でも高度なAIシステムの利用にはコストがかかります。例えば、生成AI(大規模言語モデル)を教育で活用する際の利用料は、モデルの種類や使用頻度によっては膨大になります。ある非営利教育団体の試算では、2.8百万の学生にGPT-4で作文フィードバックを提供すると年間約240万ドル(約3.5億円)の費用がかかるとされています (Navigating the High Costs of AI in EdTech - The Learning Agency)(GPT-3.5ならその1/10程度)。東京の公立学校全体でAIサービスを大規模に導入すれば、その利用料や保守費用は毎年莫大な額に上る可能性があります。

このように、AI導入には初期投資・運用とも巨額の公費負担を伴いますが、その効果が不確実である以上、限られた教育予算の使い道として適切か慎重に検討すべきです。むしろ、その予算を教員増員や奨学金、学習支援など他の教育施策に振り向けた方が効果が高い可能性もあります。教育への投資は常にトレードオフを伴うため、コストに見合う十分なリターンが期待できない政策は再考する必要があります。

5. 国際的な事例から見る課題

他国における教育へのAI・ICT導入の事例からも、多くの失敗や課題が報告されています。それらは東京都がAI導入を検討する上で重要な教訓となります。

まず、大規模な教育ICTプロジェクトの効果については懐疑的な結果が出ています。例えば新興国ペルーで実施された「One Laptop Per Child(一人一台ノートPC配布)」計画の大規模評価では、読解力・数学力テストの成績に全く向上が見られず、出席率や学習意欲にも変化がなかったことが判明しました (One Laptop Per Child is not improving reading or math. But, are we learning enough from these evaluations?)。膨大な費用をかけて児童にパソコンを配布しましたが、学力面での効果はゼロだったのです (One Laptop Per Child is not improving reading or math. But, are we learning enough from these evaluations?)。同様にネパールでの小規模実験でも英語や数学の成績に有意な差が出ず、教育へのコンピュータ導入が必ずしも成果に結び付かないことが示唆されています (One Laptop Per Child is not improving reading or math. But, are we learning enough from these evaluations?)。これらは「機器を与えれば学力が上がる」という単純なものではなく、指導法や活用支援まで含めないと効果が出ないことを物語っています。

また、AI活用に伴う失敗例として有名なのが、イギリスのAレベル試験の「アルゴリズム採点」問題です。2020年、新型コロナで試験が中止された際、過去の学校成績などを元にした予測AIが生徒の最終成績を算出しました。しかしこのアルゴリズムは社会的偏差を増幅し、多くの生徒に不当な低評価を与えたため大混乱に陥りました。実際、約40%もの受験生の成績が教師予想より下げられ (“F**k the algorithm?”: What the world can learn from the UK’s A-level grading fiasco | Impact of Social Sciences)、優秀な生徒が落第点を付けられるケースも相次いだのです。英国各地で「アルゴリズムを止めろ」と学生が抗議する事態となり、政府は急遽この結果を撤回して教師評価に切り替える措置をとりました (“F**k the algorithm?”: What the world can learn from the UK’s A-level grading fiasco | Impact of Social Sciences)。この事件は、教育評価におけるAIアルゴリズムの不透明性とバイアスの危険性を世界に示すものとなりました。

さらに、中国などではAI技術を教育現場に投入する極端な実験も報じられています。例えば中国の一部学校では生徒に脳波測定のヘッドバンドを装着させ、注意力や感情の状態をリアルタイムで教師に通知する試みが行われています (AI is a serious threat to student privacy)。しかしこれは生徒のプライバシーを大きく侵害し、管理・監視一辺倒の教育への批判を招いています(詳細は後述の倫理的課題で触れます)。韓国やシンガポールなどAI教育先進を謳う国でも、AI教材の質のばらつきや教師の負担増大、既存教育システムとの不整合など多くの課題に直面しています。

他国の事例から明らかなのは、教育へのAI/ICT導入は慎重に設計・運用しないと効果が出ないどころか弊害を招く可能性が高いという点です。東京都がグローバルに学ぶべきは、拙速な技術導入の危うさと、導入後のきめ細かなフォローの重要性です。これらの教訓を踏まえれば、現時点でリスクの大きいAI導入に踏み切るより、まずは人的リソースの充実や環境整備といった足元の課題に注力すべきと考えます。

AIを全く使ったことがないという生徒がいないように、AIに触れる+AIリテラシーについて学ぶ時間はあった方がよい。

具体的な学校・授業での使用方法については、あらかじめ活用方法を細かく決めると融通がきかなくなるので、使ってよい場面と避けるべきこと(例えば、AI採点・成績評価・入試における扱いや、個人情報の取り扱いなど)だけ決めてしばらく様子を見て、あがってきた好事例を展開できると良いのではないか。

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皆さまのご意見や安野の事例紹介を踏まえて、論点を以下のように整理しました。
これらについて、実現すべきかについてのご意見や、特別に考慮すべきこと、または、特に力を入れるべきだと考えることなどを、コメントいただけますと幸いです!

論点

  • AIによる指導や、教員の補助は可能か?
    • 生徒が誤答した際にヒントや質問例をリアルタイムで提案
    • 対話的なコミュニケーションの練習
    • 個別最適化学習(習熟度や理解度のギャップに応じて教材を個別提供)
    • 作文指導における文章表現・リテラシーへのAI支援
  • AI導入の社会的効果として考えられるものは何か?
    • AI活用が経済格差・地域格差の是正につながる可能性
    • 障害のある学生への支援と学習アクセシビリティの向上につながる可能性はないか
    • 教員の負担軽減・生徒と接する時間の増加
  • どのような制度・レギュレーションを設ける必要があるか
    • アルゴリズムの偏見と公平性
    • データプライバシーと監視社会化
    • 人間性の涵養という教育本来の目的への影響
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民間でやられてる方はいますが
ドラえもんAIプロジェクトを
国や都が全面的にバックアップして
打ち出して欲しいです

多言語対応のAIで
子どもたちから人気があれば
世界中の優秀な子どもたちに
日本の最先端の教育を受けに来てもらえます

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に賛成です。AIがドラえもんでも。
小学校では触れる機会の担保、家庭の監督のもと補助に使う。
中学校では活用の実践あたりまで含み、自己責任で補助に使う感じで。
反対政策提言にもあるように教育改革は大きな抵抗にあいそうなので
大きな改革というよりも情報リテラシー的な科目の拡充という感じ
※義務教育課程までの話、高度教育については別途
※業務効率化(教員の補助)という点ではITもAIもどんどん使うべき。

教育をするにあたり、未熟であるもの=子どもという図式を見直してはどうでしょう。
日本の大学入学年齢は国際比較をしても若年に集中しており、社会人になってからの学び直しの機会はかなり限定的なものとなっています。
近年は、社会人大学院や教職員のファカルティ・ディベロップメントなどの動きもありますが、AIのような、まだ体系化が終わっていない流動的な領域については、旧来型の「熟達したものが未熟なものへ指導する」型ハメ型の教育との相性の悪さは例をあげるだけで日が暮れそうです。

で、そんな旧来型の教育と先端技術領域の組み合わせですが、
昨今災害などでやられているプッシュ型支援としてAIの活用をされてはどうでしょうか。
東京都の大人には最後に体系的な学習をしたのは何十年も前という人が山程いそうです。
できない人をもちあげるのが日本の教育のすごいところだとしても、
学習が必要な人ほど、教育から縁遠くなってしまいます。

プッシュ型のAI義務教育チケットを発行するといいかもしれません。
「おまえ赤点だから夏休み補習な?こないと増税だから」ってやれば、世間からブチギレられること間違いなしです。
再教育収容所とか銘打てばディストピア味もでていいですね。
どこまで冗談でどこまでが本気か、信じるか信じないかはあなた次第です。
:thinking:

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「再教育収容所」構想に賛成します。
ディストピア的な響きを避けるのであれば「東京生きがいアカデミー」とかでどうでしょう。

私が思い描く理想の学びプラットフォームはこうです:
「優劣をつけるための学び」から「よりよく生きるための学び」への転換を核に据え、年齢の制限なく全世代が参加できる場にすべきです。受験戦争的な競争ではなく、創造性やスキル・キャリア形成に焦点を当てる教育こそ、AI時代に必要とされています。
具体的には、通信教育、転職サイト、スキマバイトが融合したようなプラットフォームで、個人のスキル・キャリアを管理しながら実体験を重視する仕組みが有効でしょう。従来の「補習」も、単なる繰り返しではなく、面白動画で学び直したり、IT/AIを活用した問題解決能力を身につける方向に変わるべきです。
例えば、政治家を目指す若者が「体験秘書」として地方自治体で実務経験を積みながら、国家公務員資格や財務を学び、若くして実践的なキャリアを形成するようなパスも可能になります。
また、暇つぶしで見ていた動画の最後にテストが出てきて、クリアすると「体験バイト」がアンロックされ、それがきっかけで20年後には一流クリエーターになっているというような、遊びと学びと仕事の境界が曖昧な学習体験も魅力的です。
進路に迷う人には「文化的で人間らしい活動」を体験させるという名目で、接客、一次産業、介護、育児などの現場に導き、適性があれば定着を促すような仕組みも良いでしょう。
シニア世代がセカンドキャリアを探しに訪れ、若者との交流の中で知識やノウハウを共有する双方向の学びの場も大切です。
このような多様な学びの場が、単なる学校教育の延長ではなく、生涯を通じた成長と社会参加を支えるプラットフォームになれば、AI時代の教育の新しいモデルになるのではないでしょうか。

1点目の「AIによる指導や、教員の補助は可能か?」
「生徒が誤答した際にヒントや質問例をリアルタイムで提案」の点について。

リアルタイムでの反応は実施されるべきです。ハードルになる点は、システム設計と構築や、システムの利用を可能にする制度の準備です。少なくとも、一斉授業だけではなく、自由に操作できる時間が必要です。また、UDL 上は必ずしも最適化されていない方法でのやり取りが行われる可能性があります。大前提としてWebAIM が提唱するアクセスビリティは提供される必要があります。音声による指示とテキスト入力による指示が行えます。

本活用方法は、「東京都AI戦略会議第2回」でも触れられているカーンアカデミーのカーンミーゴ(Khanmigo)が先進的な事例として存在します。応答の仕方は回答を提示するものではなく、ソクラテス式問答の方法にしたがったものだとしています。また、応答には指導要領や指導方法が複数の方法で組み込まれていると想定されます。

Khanmigo との応答は全て記録されます。

「AIによる指導や、教員の補助は可能か?」の
「作文指導における文章表現・リテラシーへのAI支援」
は、実施されるべきです。「リテラシーへのAI 支援」についてはその範囲をここでは作文に絞ったものにします。

「東京都AI戦略会議第2回」でも触れられているカーンアカデミーのカーンミーゴ(Khanmigo)のWriting coach が先進的な事例として存在します。これは作文の過程全般について、支援をしてくれるものです。作文の各段階にそった型を教えてくれるもので、個別、即時の応答や提案が対話型AI によって行われるため、迅速できめ細かに支援が行われます。

ハードルがありそうなのは、Khanmigo でのやり取りは記録されますが、個々人の習熟や指向を。指導内容と照らし合わせるには、学習内容を圧縮し、対話時に支援の内容等を決定するところが難しそうです。

「AI導入の社会的効果として考えられるものは何か?」中
「AI活用が経済格差・地域格差の是正につながる可能性」と「障害のある学生への支援と学習アクセシビリティの向上につながる可能性はないか」について。

何を修得していく方針になるかは別として、経済差や地域差によって生じる差を極力少なくできるように実現してほしい。ハードルになるのは、UDL 的な対応が行われないことによって、個々の子どもの利用が効率的に行われない場合です。これは、テキストや音声での入力が強制される場合、身振り手振りで説明したいような子どもや、作業記憶の数の相違に対応していない情報の提示が行われるような場合に特に懸念されます。ある程度やり取りの幅を絞った環境となるため、ここで生まれる差異には注意を払い、affordance やmodality が提供されたり、支援するひとによって補われるべきです。

また、別のハードルとして、家庭での利用が周囲の状況に大きく影響を受ける可能性があります。例えば、利用を妨げる保護者がいるような場合には、利用時間や方法がかなり制限されます。これはプライバシーと、やや相反にもなりかねないですが、Suvailance (David Brin) のように端末付近で起こっていることを外部に通信せずに、または、非常事態以外は記録されないような通信と判定方法で、利用がさまたげられないところをある程度監視するのが望ましいです。各家庭の選択はありますが、こどもの権利、には合致する部分があります。

  • 複数の論点が混在している気がしますね
    • AIを教育現場にどういれるべきか? という話
    • AI時代になることによる変化に教育現場はどう追いつくべきか? という話
  • 個人的には後者は大事な論点だと思うものの、本トピックのスコープ外にしたほうがよいかなと思います
    • そもそも「AIをどう行政サービスに使うべき?」という議論からはじまっているため
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本件に後者に該当すると認識されている点について、もう少し教えていただくことは可能でしょうか。「意見を出しやすい環境づくり」を目指す上で、直接意見への返信を行うことは憚られるのかもしれませんが、念のため教えていただくと助かります。

人同士で指摘しあうと角が立つかもしれないので、各論点がダウンロードできて、各自が判定をAI に実施させることができれば、それを回避しやすいのかもしれません。